がん遺伝子パネル検査は、がん細胞の多数の遺伝子を一度に調べて、がんの特徴に合った治療法を探す検査です。
相澤病院は、2026年5月に厚生労働省から「エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院」に指定され、院内でエキスパートパネル(検査結果を検討する専門家の会議)を開催しています。拠点病院である信州大学医学部附属病院 信州がんセンターと連携し、長野県のがんゲノム医療のネットワークの一員として診療をおこなっています。
2026年8月からは、標準治療が終わる前の段階でこの検査を受けられる、先進医療「標準治療終了前におけるがんゲノムプロファイリング検査」も実施しています。
このページでは、検査の内容と流れ、わかること・わからないこと、費用、当院の実績などをご説明します。検査を受けられるかどうかは、まず主治医にご相談ください。
1.がんゲノム医療とは
がんは、遺伝因子や環境因子など、さまざまな要因で発症します。がん細胞では、さまざまな遺伝子に変化が起きています。
がんゲノム医療は、がん細胞の遺伝子の変化を調べることで、一人ひとりのがんの特徴に応じた治療の選択肢を検討する医療です。「ゲノム」とは、遺伝子をはじめとした遺伝情報の全体を意味します。
がん細胞で見つかる遺伝子の変化の多くは、生まれた後にがん細胞で起きたもので、家族に受け継がれるものではありません。一方、生まれつきの体質としての遺伝子の変化(遺伝性腫瘍)は、体のすべての細胞にあり、血縁のご家族と共有していることがあります(→8)。
2.がん遺伝子パネル検査とは
主に、がんの組織を用いて、1回の検査でがんに関連する多数の遺伝子を同時に調べる検査です。「がんゲノムプロファイリング検査」とも言います。
検査には、手術で摘出したがんの組織や、診断のために採取したがんの組織を使います。血液を使う場合もあります。
血液を使う検査(リキッドバイオプシー)は、検査に適したがんの組織がない場合などに選ばれます。
3.検査の対象となる方
保険診療で受ける場合
保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けられるのは、主に次のような方です。
- 固形がん(血液のがんを除くがん)で、局所進行または転移があり、標準治療が終了した方(終了が見込まれる方を含む)
- 固形がんで、標準治療がない方
- 検査の後に、薬による治療を受けられる体の状態(全身状態や臓器の働き)にあると、主治医が判断した方
つまり、保険診療では、原則として標準治療が終わる(終わる見込みになる)まで、この検査を受けることができません。
先進医療で受ける場合(標準治療が終わる前)
当院は2026年8月から、先進医療「標準治療終了前におけるがんゲノムプロファイリング検査」(先進医療A)を実施しています。標準治療が終わる前の段階で検査を受けることの有用性を確かめるために、国の制度のもとでおこなわれているものです。
主な条件は次のとおりです。
- 進行または再発の固形がんで、薬による全身の治療(全身薬物療法)の対象となっていること
- 保険診療でのがん遺伝子パネル検査を、まだ受けていないこと
- 今の時点では保険診療で検査を受けられない(標準治療が終わっていない)と、主治医が判断していること
- C-CAT への情報の登録と、そのデータが利活用されることに同意していること
- ご本人から文書で同意をいただけること
検査には、保険診療で使われているがん遺伝子パネル検査のいずれかを用います。検体は、診療で採取したがんの組織の残り、または新たに採取する血液です。この先進医療で検査を受けられるのは1回です。
いずれの場合も、検査を受けられるかどうかは、病状や治療の経過によって異なります。まず主治医にご相談ください。
4.検査の流れ
1.検査の説明・同意
検査の内容や、わかること・わからないことについて説明を受け、納得されたうえで同意書に署名します。生まれつきの体質に関わる結果(→8)を知りたいかどうかも、このときに確認します。
2.検体の選択
手術で摘出したがんの組織や、診断のために採取したがんの組織から、検査に最も適したものを選びます。血液を採取する場合もあります。
3.検査(解析)
検体を検査会社に提出し、解析します。
4.エキスパートパネル
院内で開催するエキスパートパネルで、検査結果から治療の候補を検討します(→5)
5.検査結果の説明
担当医から検査結果の説明を受けます。必要に応じて、遺伝カウンセリングを受けます。
6.治療方針の決定
主治医と相談して、治療方針を決めます。
検体を提出してから結果のご説明までは、早ければ3週間程度です。検体の状態などにより、2か月ほどかかることもあります。
5.エキスパートパネルとは
エキスパートパネルは、多職種の専門家が、検査結果を一例ずつ検討する会議です。
- 検査で見つかった遺伝子の変化が、治療に意味をもつかを一例ずつ判断します
- 推奨される治療薬の候補や、参加できる臨床試験・治験を整理します
- 患者さんへのご説明は、この会議の検討結果に基づいておこないます
参加するのは、主治医がん薬物療法の医師、病理医、臨床遺伝専門医、遺伝子解析の専門家、薬剤師、遺伝カウンセラー、看護師などです。
当院は2026年5月の指定により、院内でエキスパートパネルを開催しています。拠点病院である信州大学医学部附属病院のエキスパートパネルにも、引き続き参加しています。
6.検査でわかること
次のような情報が得られる可能性があります。
- 治療の選択に役立つ可能性がある遺伝子の変化
- 治療の効果が期待できる、国内で承認されている治療薬の情報
- 治療の効果が期待できる、国内で臨床試験(治験など)がおこなわれている治療薬の情報
7.ご理解いただきたいこと
- 検査を受けても、診断や治療に役立つ情報が得られないことがあります。
- 治療の候補となる薬が見つかっても、国内で承認されていない薬の場合は、薬を入手できない、あるいは使えないことがあります。臨床試験(治験)に参加できるかどうかは、試験ごとの条件によります。
- 検査は治療の効果を保証するものではありません。検査の結果に基づいて治療をおこなっても、十分な効果が得られないことがあります。
- 検査の後の治療にかかる費用は、この検査の費用には含まれません。
- 検体の状態によっては、解析ができないことがあります。
- 検査の結果で候補として挙げられた薬を使うときは、必ず主治医の指示に従ってください。
当院での実際の件数は、「12.当院の実績」をご覧ください。
8.生まれつきの体質がわかることがあります
この検査は、がんの治療法を探すためのものですが、その過程で、本来の目的とは別に、生まれつきの遺伝的な体質(たとえば、特定のがんになりやすい体質)がわかることがあります。これを「二次的所見」といいます。
ご本人だけでなく、血縁のご家族にも関わりうる情報のため、専門的な説明(遺伝カウンセリング)が欠かせません。こうした結果を知りたいかどうかは、ご本人のご意思を尊重します。当院では、遺伝子診療科が二次的所見の拾い上げから、遺伝カウンセリング、確認の検査、ご家族への対応までを担っています。
→「遺伝性腫瘍(遺伝性のがん)について」のページもご覧ください。
10.個人情報と検査結果の登録
患者さんのお名前や検査結果など、プライバシーの保護に十分配慮しています。検査は検査委託会社・解析委託会社でおこなわれますが、個人を特定できる情報が、これらの会社に通知されることはありません。
保険診療では、検査の情報を国の「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」に登録することが必須です。先進医療でも、C-CAT への登録と、データが利活用されることへの同意が条件になっています。登録された情報は、検査結果の解釈や、よりよいがん医療の提供に役立てられます。
11.相澤病院の体制
相澤病院では、がんゲノム医療の運用を「遺伝子診療科」が中心となって担っています。遺伝子診療科が、がん集学治療センター、各診療科、病理診断科、薬剤部、看護部、認定遺伝カウンセラーなどと連携し、検査前の説明から、検査結果の解釈、治療の選択肢の検討、二次的所見として見つかる遺伝性腫瘍への対応まで、一貫して支援しています。がんゲノム医療コーディネーター(看護師・薬剤師)が、部署の間の調整を担っています。
手術や生検で採取したがんの組織は、病理診断の後、適切に保管・管理され、がん遺伝子パネル検査に用いることができます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2020年1月 | 厚生労働省から「がんゲノム医療連携病院」に指定 |
| 2020年5月 | がん遺伝子パネル検査の出検を開始 |
| 2026年5月 | 厚生労働省から「エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院」に指定(全国42施設の一つ。2026年5月1日時点)。院内でエキスパートパネルを開催 |
| 2026年8月 | 先進医療「標準治療終了前におけるがんゲノムプロファイリング検査」を開始 |
当院は、信州大学医学部附属病院をはじめとする県内の関係医療機関と連携しながら、長野県のがんゲノム医療と遺伝性腫瘍診療の発展に取り組んでいます。
12.当院の実績
2020年5月から2026年7月末までの集計です(遺伝子診療科、2026年10月集計)。
検査の件数
がん遺伝子パネル検査は 253件(がんの組織を用いた検査 175件、血液を用いた検査 78件)です。
| 年度 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026* |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 件数 | 18 | 49 | 43 | 32 | 44 | 51 | 16 |
年度は4月〜翌年3月。* 2026年度は4〜7月の集計です。
主ながんの種類
大腸がん 59件、膵がん 42件、乳がん 34件、肺がん 26件、胆道がん 20件、胃がん 15件、ほか。
治療につながった件数
結果が出てエキスパートパネルで検討した 251件のうち、次のとおりです。
- 投与可能な薬(保険で承認され、適応のあるもの)が見つかった:36件
- そのうち、実際に投与した:20件
- 治験につながった:3件(上の36件とは別)
薬が見つかっても、今の治療を優先し、効果がなくなったときに使う予定の方もいます。
生まれつきの体質(二次的所見)への対応
生まれつきの体質に関わる可能性が示された17件の全例で、遺伝カウンセリングをおこないました。そのうち 9件で確認の検査をおこない、4件で生まれつきの遺伝子の変化が確定しました。