「家族にがんを経験した人が多い」「もしかしたら遺伝が関係しているのかもしれない」。そんな気がかりがあるときに、知っておくと役立つことをまとめました。

受け継がれるのは、がんそのものではなく、がんになりやすい体質です。体質を知ることで、ご本人やご家族の健康管理や治療について、選択肢が広がることがあります。

気になることがあれば、遺伝子診療科の遺伝カウンセリングでご相談ください。検査を受けると決めていない段階でも相談できます。

このページの内容

1.遺伝性腫瘍とは

生まれつきの遺伝子の特徴によって、がんを発症しやすい体質をもつことがあります。この状態を「遺伝性腫瘍(遺伝性のがん)」といいます。

受け継がれるのは、がんそのものではなく、がんになりやすい体質です。
がんを発症した人の約5%(20人に1人)は、遺伝性腫瘍の体質をもつと考えられています。ただし、その体質があっても、必ずがんになるわけではありません。

遺伝子とは

私たちの体は、たくさんの細胞でできています。細胞の中心にある「核」には、DNAという物質がおさめられています。このDNAに記されている、体をつくり、働かせるための情報が「遺伝子」です。

遺伝子の多くは、父親と母親から一つずつ受け継ぎます。その情報には一人ひとり少しずつ違いがあり、体質などに関わっています。人によって違いがあるのは、自然なことです。

遺伝子の中には、がんができるのを防ぐ働きをするものがあります。生まれもった遺伝子の変化によってその働きが弱まると、がんになりやすい体質になることがあります。遺伝性腫瘍には、こうした体質が関わっています。

2.主な遺伝性腫瘍

遺伝性腫瘍にはさまざまな種類があり、関係する遺伝子によって、注意すべきがんの種類や健康管理の方法が異なります。代表的なものを挙げます。

疾患名 関係する主な遺伝子 注意が必要な主ながん・腫瘍
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC) BRCA1、BRCA2 乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がん
リンチ症候群 MLH1、MSH2、MSH6、PMS2 大腸がん、子宮体がん、胃がん、卵巣がん、腎盂・尿管がん、小腸がん、胆道がん、膵がんなど
リー・フラウメニ症候群 TP53 乳がん(閉経前)、肉腫、脳腫瘍、副腎皮質腫瘍など
家族性大腸腺腫症 APC 大腸の多数のポリープ(腺腫)と大腸がん、胃の多数のポリープ、十二指腸の腫瘍など
多発性内分泌腫瘍症1型 MEN1 副甲状腺の腫瘍、膵臓・消化管の神経内分泌腫瘍、下垂体の腫瘍など
多発性内分泌腫瘍症2型 RET 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、副甲状腺の腫瘍
フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL 脳・脊髄や網膜の血管芽腫、腎細胞がん、褐色細胞腫、膵臓の腫瘍など

この他にも、多くの種類があります。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)

BRCA1またはBRCA2という遺伝子の特定の変化により、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが高くなります。遺伝性腫瘍のなかでも、診療の仕組みが整ってきたものです。
女性の乳がん・卵巣がんだけでなく、膵がん、男性の乳がん、前立腺がんにも注意が必要です。

リンチ症候群

細胞が分かれるときにDNAの写し間違いを直す働き(ミスマッチ修復)にかかわる遺伝子の変化により、大腸がんや子宮体がんなどの発症リスクが高くなります。大腸がんや子宮体がんなどの、がんの組織を調べる検査が、気づくきっかけになることがあります。

3.どんなことが気づくきっかけになる?

本人や家族のがんの経過から

若い年齢でがんになった、ひとりで複数のがんを経験した、家族に同じ種類のがんが何人かいる。こうした経過が、遺伝性腫瘍に気づくきっかけになることがあります。

がんの治療のために受けた検査から

がんの治療薬を選ぶために、遺伝子を調べることがあります。その結果から、がんの発症に生まれつきの体質が関係している可能性がわかることがあります。

たとえば、次のような検査です。

  • 乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がんで、治療薬を選ぶために行うBRCA1・BRCA2遺伝子の検査
  • 大腸がんや子宮体がんなどで、がんの性質を調べる検査(MSI検査など)
  • がん遺伝子パネル検査(主にがん細胞の遺伝子を調べる検査ですが、その結果から、生まれつきの体質の可能性がわかることがあります。→「がん遺伝子パネル検査について」)

いずれの場合も、検査を受けられるかどうかは、病状や治療の経過によって異なります。まず主治医にご相談ください。

情報を知ったことから

テレビや雑誌などで遺伝性腫瘍について知ったり、医療者から説明を受けたりしたことが、自分や家族の体質に目を向けるきっかけになることがあります。

チェックリスト

自分や血縁のある家族・親戚(血縁者)について、思い当たることはありますか?

  • 比較的若い年齢(目安は50歳未満※)で、がんと診断された
  • 乳房や腎臓など、左右にある臓器の両方にがんができた
  • 男性で乳がんになった
  • 父方・母方のどちらか一方の血縁者に、同じ種類のがんを経験した人が複数いる
  • 父方・母方のどちらか一方の血縁者に、乳がんになった人と卵巣がんになった人がいる
  • 父方または母方のどちらか一方の血縁者に、大腸がんになった人と子宮体がんになった人がいる
  • 血縁者に、遺伝性腫瘍と診断された人がいる

※目安となる年齢は、がんの種類によって異なります。

チェックの数だけでは、判断できません

これらは、相談のきっかけになる例です。当てはまる項目の数だけで、遺伝性腫瘍かどうかが分かるわけではありません。病歴やこれまでの家族歴を整理する際の参考にしてください。当てはまらなくても、気になることがあれば相談できます。
家族にがんが多くなくても、遺伝性腫瘍のことがあります。大切なのは、「家族にがんが多いから遺伝性だ」「検査で変化が見つからなければ心配ない」と決めつけないことです。

4.体質を知ると何が変わる?

早期発見のための定期的な検査

体質に応じて、注意するがんに合った検査(検診)や受診の方法(開始年齢や検査の間隔)を検討できることがあります。たとえば、HBOCでは乳房MRIを含む乳がんの検診、リンチ症候群では定期的な大腸内視鏡検査などです。

発症リスクを下げる方法

体質によっては、がんになる可能性を下げるための手術などを検討することがあります。たとえば、HBOCでは、卵巣・卵管を切除する手術(リスク低減卵管卵巣摘出術)や、乳房を切除する手術(リスク低減乳房切除術)があります。

治療の選択

がんの治療薬を選ぶ手がかりになることがあります。たとえば、BRCA1・BRCA2の変化があるがんでは、PARP阻害薬という治療薬が選択肢になることがあります。

家族の健康管理

血縁のある家族が、自分にあった健康管理を考える手がかりになります。
※体質や年齢、これまでの経過によって、適した方法は異なります。どの方法を選ぶか、選ばないかは、十分に説明を受けたうえで、ご本人が決めることです。

5.遺伝子の検査について

体質を調べる遺伝子の検査は、多くの場合、採血で行います。血液の中の細胞からDNAを取り出し、がんへのなりやすさに関わる遺伝子の変化を調べます。結果は、自分や家族に合った健康管理や治療を考える手がかりになります。

結果は、おおまかに次の3つに分かれます。

  • がんへのなりやすさに関わる変化が見つかった
  • がんへのなりやすさに関わる変化は見つからなかった
  • 変化は見つかったが、病気に関係するかどうか、現時点でははっきりしない

遺伝子の検査を受けても、はっきりした答えが出ないこともありますが、結果の意味やこれからのことを、遺伝カウンセリングで一緒に考えるきっかけになります。

変化が見つからなかった場合も、「心配ない」と決めつけないことが大切です。家族歴によっては、引き続き注意した健康管理が勧められることがあります。

検査を受けるかどうかは、相談したうえでご本人が決めます。受けないという選択もあります。ご家族のなかでは、がんを経験した方が最初に検査を受けることで、結果がわかりやすくなる場合があります。

6.家族にはどう関わる?

体質を知ることは、家族の健康を考える手がかりになることがあります

遺伝性腫瘍では、がんになりやすい体質に関わる遺伝子の変化が、血縁の家族に受け継がれることがあります。多くの遺伝性腫瘍では、親がもつ遺伝子の変化が、子ども一人ひとりに、2分の1(50%)の確率で受け継がれます。これは遺伝子の変化を受け継ぐ確率で、がんになる確率ではありません。

体質は、父方・母方のどちらからも受け継がれる可能性があります。女性だけ、男性だけに受け継がれるものではありません。

遺伝子の情報が、家族の健康管理に役立つこともあります

家族が遺伝子の検査を受けるかどうかを検討するきっかけとなり、定期的な検診・検査など、その人に合った健康管理につながることがあります。

同じ家族でも、体質の受け継がれ方は一人ひとり違います

きょうだいでも、体質を受け継ぐ人と受け継がない人がいます。

【体質の受け継がれ方の例】

※年齢は、がんが診断された時の年齢です。

家族の情報を整理するには

血縁のある家族について、誰が、どのような病気を、何歳ごろに発症したのかを、わかる範囲で書き留めておくと、相談するときの参考になります。わからないことがあっても、そのまま相談することができます。

検査結果の意味や、家族への伝え方も相談できます。子どもへの影響や、検査を受ける時期についても相談できます。

7.保険診療で受けられる範囲

遺伝カウンセリングや遺伝子の検査は、相談される方や相談・検査の内容により、保険診療または自費診療になります。
がんを発症した方の一部では、以前から、遺伝子の検査などが保険診療で行われています。

保険診療で受けられる範囲が広がっています

2026年6月から、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方の血縁者のうち、一定の条件を満たす場合は、がんを発症していなくても遺伝子の検査が保険診療の対象となりました。その検査でHBOCと診断された場合には、がんになる可能性を下げるための手術や、早期発見のための定期的な検診なども、条件に応じて保険診療の対象になります。詳しくは遺伝カウンセリングの際に確認できます。

自費診療の場合の遺伝カウンセリング料:初回 11,000円(税込)/2回目以降 4,400円(税込)

8.気になったらどこに相談できる?

相談したい内容や今の状況に合わせて、窓口を選ぶことができます。

どこに相談したらよいか迷ったときは がん相談支援センター
がんや治療、生活上のことなどを相談できる窓口です。遺伝に関する相談先がわからない時にも、適切な窓口を案内してもらうことができます。
体質や遺伝子の検査を専門家に相談したいときは 遺伝カウンセリング外来
家族歴や体質、遺伝子の検査について、専門家と一緒に整理することができます。検査を受けると決めていない段階でも相談できます。
がんの治療を受けているときは 主治医・治療を受けている医療機関
治療のために行った遺伝子の検査や、家族のことを確認したい場合は、主治医から専門の窓口につないでもらうこともできます。
遺伝カウンセリングとは

自分や家族の病気と遺伝の関わり、遺伝子の検査、これからの健康管理などを相談できる場です。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどが、医学的な情報をお伝えしながら、相談内容に応じて一緒に整理をしていきます。「家族のがんが気になる」「遺伝子の検査について知りたい」「検査を受けるか迷っている」など、相談内容は人それぞれです。

  • 検査を受けることを決めてから相談する必要はありません。遺伝子の検査を受けるかどうか迷っている段階でも相談できます。
  • 病気のある・なしに関わらず相談することができます。がんを経験した方だけでなく、がんを発症していない方も相談できます。

9.相澤病院の遺伝性腫瘍の診療

遺伝子診療科では、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが遺伝カウンセリングをおこなっています。院内の各診療科や相澤健康センターと協力して、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、健康管理をおこなっています。

乳腺・甲状腺外科、消化器内科、腫瘍内科をはじめとする各診療科と、検査や治療について連携しています。検診などの健康管理は、相澤健康センターと協力しておこないます。

施設認定
  • 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳癌卵巣癌総合診療連携施設
  • エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院

10.受診・ご予約

ご予約 Tel.0570-03-3600(代)
※音声ガイダンスに従い「遺伝子診療科外来」へ
予約枠 月曜日 午後/水曜日 午前/金曜日 午前
※他の曜日・時間帯も対応できる場合があります。詳しくは予約の際にご相談ください。
担当 臨床遺伝専門医/認定遺伝カウンセラー
  • 紹介状がなくても相談できます。選定療養費はかかりません。かかりつけの医療機関がある場合は、紹介状があると、これまでの経過を確認しやすくなります。
  • ほかの医療機関に通院中の方も相談できます。
  • 予約は電話でできます。医療や遺伝について気になっていることは、受診時に詳しくお聞きします。
  • 初回の遺伝カウンセリングは、およそ1時間です。
  • ご家族やパートナーと一緒に来ることもできます。
  • がんを経験した家族が亡くなっている場合も相談できます。

11.よくある質問

A. そうとは限りません。がんは身近な病気で、家族に何人かいることもあります。反対に、家族にがんが多くなくても、遺伝性腫瘍のことがあります。気になる場合は、家族の情報をわかる範囲で整理して、ご相談ください。
A. はい。がんを発症していない方も相談できます。
A. いいえ。検査を受けると決めていない段階でも相談できます。受けるかどうかは、相談したうえでご本人が決めます。
A. 紹介状がなくても相談できます。選定療養費はかかりません。かかりつけの医療機関がある場合は、紹介状があると、これまでの経過を確認しやすくなります。
A. はい。ご家族やパートナーと一緒に来ることもできます。
A. はい、相談できます。わかる範囲の情報で構いません。
A. 子どもへの影響や、検査を受ける時期についても相談できます。

【コンテンツ制作協力】
井本 逸勢(愛知県がんセンター 研究所長)
高磯 伸枝(愛知県がんセンター 認定遺伝カウンセラー)

12.関連リンク